日本国内の淡水域にはナマズ目の在来種が3科9種生息しており,このうちの半数以上である5種が環境省の定めるレッドリストにて絶滅危惧種に指定されています.
栃木県を含む関東地方にはナマズ科のナマズSilurus asotus,アカザ科のアカザLiobagrus reinii,およびギギ科のギバチPseudobagrus tokiensisが生息しています.中でもギバチは河川中流域や,それに流入する小河川,農業用水路に数多く生息しているため,圃場整備等による生息域の分断によって生息数が減少している傾向にあります.
また近年,わが国では淡水魚の減少が指摘されており,特に二次的自然に生息する淡水魚の減少が顕著であるとされています.これを受け,2016年に環境省から「二次的な自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言」が公表されました.ギバチも同提言中で類型3に分類されており,保全が望まれています.
「二次的な自然を主な生息環境とする淡水魚保全のための提言」 参考資料2 検討対象種・詳細検討対象種選定過程・類型化結果より
同提言中では,淡水魚の保全において,以下のことが述べられています.
「淡水魚は,卵,仔魚,稚魚,未成魚,成魚等の成長段階や,越冬期,繁殖期等の生活史に応じて,多様な生息の場を利用する.そのため,それぞれの生息の場を保全・再生し,それらの場への行き来が確保され,生活史を全うできることが大切である.」
しかしギバチに関して,生活史に準じた多様な利用環境の把握には至ってないため,ギバチの基礎的な知見の集積が喫緊の課題と言えます.
本研究室では,ギバチに小型の標識PITtagを挿入することで,個体ごとの追跡調査を行い,ギバチの基礎的な知見が集積しつつあります.
採捕したギバチにPITtagを挿入したところ
本研究によりギバチの基礎的な生態を明らかにすることで,ギバチの保全に際して,有効な材料提示を目指しています.